狐の話

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 なるほど。狐は人に化けられる。それで文字を書けたのか。っていうことは正直今はどうでも良い。  こんこん 「何者だ主は?まさか私を消しに来たのか?」  あまりの美しさに見惚れていると、高圧的な言葉が投げかけられた。ふと我に返り、投げかけられた言葉に返事をする。 「私はあなたを祓いに来ました」 「やはりそうか。素直な敵だ。ずるくない人間は珍しい」 「しかし今、祓うことを止めたいと思っています」 「は?何を言っておる?貴様馬鹿なのか?」 「すみません。冷静を欠いていますね。それくらい美しかったので」 「は?おい、おかしな人間。貴様は私を消しに来たのだろう?」 「はい。数時間前この村に訪れ、数分前頼まれ、数秒前まで祓う予定でした」 「ならばどうして?」 「あのお札、何かあったのでしょう?」 「そうだ。あの人間共のせいで友が大怪我をした。私は薬草を探しに行った」 「それで崖で転倒して怪異になった、ですか?」 「その通りだ。何故わかる?」 「今まで出会った多くの獣の怪異も、似た事情だったので」 「貴様はこれまで獣の怪異を何体消した?」 「消したなんて言わないでください。輪廻転生に導いたと」 「同じではないか?消したのだろう?」 「そうですね。しかし消したとは少し違います。お祓いはいいものですよ」 「しかし貴様は」 「ご事情はわかりました。やはりあなたは良い怪異であった」 「は?」 「友を思い、自分は怪異になった。人を恨んでも仕方がありません」 「主は何を言っている?『許さぬ』と脅したのだぞ。お前と同じ種族を」 「でもあなたは良い怪異だ」 「言ってることが滅茶苦茶だぞ」 「すみません。では更に滅茶苦茶なことを言います」 「なんじゃ?」 「私と一緒に旅をしませんか?」 「なんじゃと?」 「私の一目惚れです。あなたをまだ祓いたくない」 「何なのだ一体?」 「消されたくないのでしょう?お返事をください」 「急すぎてよくわからぬ。だが貴様も良い人間そうだ」 「つまりは」 「良かろう。一緒に旅とやらをしてやる」 「有難うございます」  あまりの急展開で森羅万象が吹っ飛びかけたことは、私と狐さんを含め、その他諸々が驚いたことだろう。  この時祓う意外にこんな解決法があることを知った。    人々は怪異的なことがもう起こらなくて万歳。ならばこの解決法も良いではないか。しかし怪異はやはり怪異か。今回は特例にしよう。  朝まで私たちは、今までのことを語らった。  朝日が輝くその時まで。
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