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「母さん、どういうことだよ」
『こっちが教えてほしいくらいよ、気づいたらこの花の中にいたのよ』
にわかには信じられない。だが、この脳に響く声は確かに母のものであった。
俺は確かめるように指をアスターに近づけ、中心部に擦り付ける。
その時、アスターが飛び跳ねるように花弁を揺らした。
『ちょっ臭っ!あんたへそ触ったでしょそれ』
俺は母の反応に思わずくすくすと笑ってしまう。
「こりゃあたまげた、間違いなく本物だ」
『だからそう言ってるでしょ、全く』
母はやれやれといった様子で花弁を揺らした。
俺は母を横目に見ながら、机の上の置時計を見た。
時刻は10時だ。少し寝坊してしまったがまあ、平気だろう。
そして朝ご飯を食べようと扉に向かおうとした時、母の鋭い声が響く。
『あんた、学校は?』
「今日、土曜日だよ」
『嘘おっしゃい』
「えっ?」
俺は驚きの声を上げる。
母は確信に満ちた様子で口を開く。
『あんた、嘘つくとき左腕を押さえる癖があるのよ』
慌てて、左腕を見ると確かに腕の上に手が乗せられていた。
俺は頭をポリポリと掻いた。
「ごめん、さぼった」
『いつからさぼってんの?』
「今日だけ」
『だから、意味ないわよ』
俺ははっとして押さえられた左腕を見た。
そして観念したかのように首を振った。
「…母さんが死んでから」
『なんでそうなるのよ』
俺はそれには答えずに自室を出た。
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