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『私が生まれつき心臓が弱かったのは知ってるでしょ?』
「ああ」
『だから、ね。あんたを初めて生むとき言われたんだよ。お医者さんに』
「…なんて?」
『命を落とす可能性が高いって』
「え?」
初耳だった。母が生きている間、母も父もそんなことはおくびにも出さなかった。
「聞いたことなかった」
『そりゃあね、あんたに変な気遣いさせたくなかったもの』
「…そうか」
俺は手元のアスターを見つめる。母は正面の花畑をじっと見つめていた。
『私はそりゃあもう、迷ったよ。
子供は産みたい。
でも、それをしたら私は死んでしまうかもしれない。
お父さんは産まなくていいって言ってくれた。
でも、私は決心がつかなくてね。
そんな時、私はこのアスターの花畑に初めて訪れたんだ。』
その時、花瓶の中のアスターが小さく震えた。まるで楽しくてはしゃいでいるようだった。
『綺麗だなって思った。赤、青、白、ピンク、紫。
色とりどりのアスターが私を出迎えてくれた。
それを見ていたらなんだか現実を忘れちゃってね。
気持ちよかった。いつまでもここにいられたらなって思った。
そのうち私はまどろみ始めちゃってね。
気づいたら夢を見てた。』
「どんな、夢だったんだ?」
アスターが楽しそうに揺れた。
『この花畑にいる私がはっきりと映ったの。
そこにいた私はとても幸せそうだった。
自分のこんな笑顔、初めて見たと思った。
でも、すぐに納得した。
だって…
私の側にはお父さんと、もう一人。
あなたがいたんだもの』
『私は家に帰って、アスターの花言葉を何気なく調べてみたの。
赤、青…色ごとに違うのね。そしてピンクの花言葉を見たとき、なんだか可笑しくって笑っちゃった』
「なんだったんだよ」
『甘い夢』
俺もふっと笑った。それはまるで…
『私が花畑で見た、あの夢。
それをあのアスターが見せてくれたんだと思った。
ずるいわよね。そんなの。
そんなことされたら…死んだって見たいに決まってるじゃない』
それから、母は決死の覚悟で俺を産むことを決めたのだそうだ。
結果はこの通りだった。俺は無事に生まれた。
『でもね、あなたに謝らなくちゃいけないことがある』
「なんだよ」
『私の心臓病はそれ以来悪化しちゃってね。
今年に入って余命を知らされていたんだ。
それが…今年の夏だったんだ。』
なんで教えてくれなかったんだ、という問いかけを仕掛けて俺はやめた。
その答えをもう聞いたような気がしたからだ。
でも、それでも…。
「言ってくれよ。…俺だって家族なんだから」
やはり俺は知りたかったと思う。
この胸に宿るしこりのような思い。
それを持つこともなかったかもしれないのだから。
その時、母がすっと顔を上げた。
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