ほおずき

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 新型コロナウィルスが感染拡大する中、各インフラ業界で働いている人たちに対して我々の為にライフラインを支えてくださって感謝していますというようなことを誰も彼も言うようになった。  確かに殊に医療に従事する人の苦労は計り知れなくて、それを思うと労わりたくもなるが、我々の為にって言うけどさあ、感染者がどこの病院でも受け入れられずたらい回しにされているという話をよく聞くし、例えば、運送で働いている人にしたってさ、偶々その仕事に就く運命になったから運送業をしているだけの話で突き詰めれば、自分の為、金の為に働いているのであって結果的に他人の為になっていても他人の為に働いている訳じゃないんだ。なのに自分の為に働いてくれていると考えるのは自己中というものだ。  ま、皆、本気で自分の為に働いてくれていると思ってるんじゃなくて真実を述べると、ぎすぎすした感じになるし悪感を持たれるから美化しようと、あるいは歓心を買おうと綺麗事を言っているのだろう。  勿論、大人が綺麗事を言うのは世渡りする上での常套手段であって今に始まったことじゃない。お世辞だってお追従だってお愛想だって、そういった外交辞令的なことを濫用するのが大人の常だ。心にもない口先だけのさ。お互いに言うんだ。そうして予定調和の和み合いをするんだ。  そう思う俺は皆、言うことに中身がないと言わざるを得ない。丁度、中身が空っぽの酸漿のような物さ。偽り、欺瞞、誤魔化しといった花言葉がいみじくも言い表しているじゃないか。
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