127人が本棚に入れています
本棚に追加
男二人で向かい合い、ソーメンを啜る音だけが続く。
黙々と食べること、10分。
水と氷を張ったガラスボウルに、麺があらかたなくなった頃に
「あのさ、石原さん……」
ケンが口を開いた。
「やっぱりなんかあったんだろ? 帰ってきてから、ずっと変」
「そんなことないです」
「島の奥の爺さんに怒鳴られたか?」
たまに居るのだ。
警察官の訪問を面倒がって追い返す老人が。
「暇なお巡りさん、俺が生きているのを見に来たのか? 生憎とまだくたばってないよ」
ケンが石原について行った先で、何度かそんな風景を目にした。
石原は困った顔しつつも笑顔で
「お元気で何よりです」
と対応していたが、
「分かったら、さっさと帰ったら! 早くしないと魚、逃げちゃうよ」
老人の塩っぱ過ぎる対応に、ケンは危うく老人に殴り掛かりそうになるのをじっと堪えていた。
その時のケンの表情は修行僧だ(と、石原には見えた)。
「また『いちいちこんなとこまで来んな。暇人のおまわりめ!』とでも罵られたか? 偏屈じじいに」
「今日行ったとこは、おばあさんちです」
「じゃあ、偏屈ばばあ」
「優しい良い方で、『久しぶりに人間と話す』と喜ばれて麦茶までごちそうしてくれましたよ」
先ほど会った老人の笑顔を思い出す。
知らない所でこんな風に言われるのも心外だろうと、石原はすかさずケンの考えを否定した。
最初のコメントを投稿しよう!