04-3.後

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 男二人で向かい合い、ソーメンを啜る音だけが続く。  黙々と食べること、10分。  水と氷を張ったガラスボウルに、麺があらかたなくなった頃に 「あのさ、石原さん……」  ケンが口を開いた。 「やっぱりなんかあったんだろ? 帰ってきてから、ずっと変」 「そんなことないです」 「島の奥の爺さんに怒鳴られたか?」  たまに居るのだ。  警察官の訪問を面倒がって追い返す老人が。 「暇なお巡りさん、俺が生きているのを見に来たのか? 生憎とまだくたばってないよ」  ケンが石原について行った先で、何度かそんな風景を目にした。  石原は困った顔しつつも笑顔で 「お元気で何よりです」  と対応していたが、 「分かったら、さっさと帰ったら! 早くしないと魚、逃げちゃうよ」  老人の塩っぱ過ぎる対応に、ケンは危うく老人に殴り掛かりそうになるのをじっと堪えていた。  その時のケンの表情は修行僧だ(と、石原には見えた)。 「また『いちいちこんなとこまで来んな。暇人のおまわりめ!』とでも罵られたか? 偏屈じじいに」 「今日行ったとこは、おばあさんちです」 「じゃあ、偏屈ばばあ」 「優しい良い方で、『久しぶりに人間と話す』と喜ばれて麦茶までごちそうしてくれましたよ」  先ほど会った老人の笑顔を思い出す。  知らない所でこんな風に言われるのも心外だろうと、石原はすかさずケンの考えを否定した。
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