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その日も、夜な夜なケンは石原の元を訪れた。
それも決まって石原が寝入っていると思われる深夜に。
石原は石原で
(今夜もケンが頭皮確認に来るかも)
と思うと、おちおち寝てなどいられない。
案の定、ケンは気配を消して隣の石原に忍び寄った。
先日と同じように手のひらでそっと首から頬に触れ、首筋、耳の後ろに移動した。
(な?!)
何を思ったのか、耳から頬に戻ってきた手のひらは、今夜は戸惑いがちに親指の腹で石原の唇をなぞってきた。
(ナニ?!)
心拍数が跳ね上がる。
触れられた部分が熱い。
(ケンは一体ナニしたいのですか?!)
ドキドキという鼓動がうるさい。
思考がまとまらない。
ケンが、はあと大きく息を吐き出すと、いつものスーパーミントグリーンの香りが漂った。
「……」
しばらくした後、不意に石原の額ギリギリに顔が寄ってきた。
(そんなに確認しなくても、あなたと同じ匂いしかしませんからぁ!)
半ば泣き出したいような気持ちを抑えつつ、目を開けられずに石原は固まっていた。
ここで目を開けて、ケンに真意を問いただしてもいいのだろうが、それをするのは何故か憚られていた。
(そのまま、して……ほしいような……)
ケンに触れてほしいような、してほしくないような。
声を上げたら、あるいはここで目を開けたら、ケンは一体どうするのだろうか。
(動揺が過ぎる)
今、声を上げたら、きっと裏返っている。
変な声になる。
(よし、声を出すまい……!)
寝たふり続行を決意した石原は、その後も似たような夜を過ごす羽目に陥った。
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