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「緒方ケンらしき人物だけど、小物過ぎて被害届出てないんだな」
「え? そんな筈ないんです。制服着た僕を明らかに警戒してましたので」
出会った時のケンの素っ気なさを思い出す。
あの時、ケンは石原との関わりを極力避けていた。駐在所に行きたくないが、来なければ逮捕という状況で仕方なくついてきた。今でこそ話すが、初めのうちは会話もほとんどなく、明らかに探りを入れられては困るといった雰囲気だったのに。
「でな、駅裏の防犯カメラをチェックしたんだけど、金髪デカ男がそれっぽいことしているのは写ってた」
「それっぽいことって?」
「ヤクの売り買いっぽいこと」
「……」
「でもさ、『友達にCD貸してました』とかなんとか言われたら終わりレベルの画像なんだよね」
「そうですか……」
喜んでいいのかどうか曖昧な結果に戸惑う。
楽観的には見れない。どうしても最悪なパターンを想定して動いてしまうのは、石原の警察官として身につけた性格だった。
「あ、名前だけど……緒方ケンは偽名な。調べたら、その名前のヤツは居ない。いくつかお前の言っている男の特徴に合っている候補者の名前なんだけど……①太田賢 ②小田健司 ③緒方堅志朗、どれがいい?」
「どれって……?」
またコウサンみたいな名前の羅列に、石原は戸惑った。
「この三人が、目下行方掴めていない金髪大男くん」
この条件に合う男が三人も居るのかと驚くと同時に、疑ったけどどうやらちゃんと調べてくれていると分かって、安心した。
「真さん、どんなツテを持っているんです?」
「ひ・み・つ」
語尾にハートマーク付いていそうな言い方だ。
ギャル系の誰かが情報源か、最近、そういうタイプの人との別の事件で関わっているのだろう。
「じゃあ、③番の緒方堅志朗くんで」
緒方家で会ったのだ。名字くらいは正しいのだろうと石原はふんだ。
「お、こいつはね、児童施設出身。それなりに仕事してたんだけど、なんかちんぴらっぽい兄貴的な奴に目を付けられて、使いっぱになっちゃったヤツね。もちろん、目下、行方不明」
「あ、……ビンゴです。真さん」
かつてケンがそう言っていたのを思い出した。
「備後? 備中? 備前? テン上げー! アゲミザワ!」
「何を言っているのか、ちょっと分かりません」
「冷たいね。陸裕」
「酔っ払いには冷たいんですよ」
「でもさー、どうすんだ? ③番の男、限りなくクロに近いグレーだ。他の人にしておかない? ①番か②番だと限りなくシロっぽい経歴だよ」
「いやいや、違う人にしてもしょうがないでしょ?」
酔っ払いに道理は通用しない。
だが言っていることは信用おけそうだ。
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