04-3.後

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(さて)  真っ正面から帰るのも芸がないと、駐在所の裏に回りこむ。 (む。ちょっと雑草多いですね。今度、草むしりしなくっちゃ)  石原の頭の中で、当たり前のようにケンと一緒に草むしりをする絵が浮かんだ。  誘えば、絶対に断らないだろうし、むしろ喜んで一緒に作業する。 (……僕はいつの間に、こんなになっちゃったんだろう)  当たり前のように、ケンと一緒に作業し、ご飯を食べて寝る。  その当たり前の生活が、今から目撃することですべて終わってしまうかもしれない。  そう思うと恐怖しかない。  だけど、このままにもしておけない。 (大丈夫。例えケンが何かヤらかしていたとしても、僕は受け入れる)  呼吸を整え、顔を上げる。  石原の決意は揺らがなかった。  どうやらケンは、いつもの1階生活スペースに居るようだ。  そっと物音を立てぬように、裏の窓に忍び寄る。  幸い駐在所の古い窓は薄い。そこに耳を寄せる。 「あ……、っ、は……、ぁ……」  思いがけないケンの荒い息づかいが聞こえてきた。 「い……しはらっ……さ……!」 (な、なぜに僕の名前?!)  慌てて覗き込むと 「ふ……ぁっ!」  暑いのに締め切っていた所為もあり、上気したケンの赤い顔が目に飛び込んできた。 (ナニか、ヤらかしてたーーーーー!)  石原の心臓がドクンと、ひときわ大きく高鳴った。  汗で額に金髪が張り付いている。  眉間に皺を寄せ、薄く開いた目と口が悩ましい。  陶酔したような妙に艶っぽいケンの表情に、石原は (ケン……、あんな顔するんだ……)  と息を飲んだ。  いつもちょっといきがった雰囲気で、背こそ高いけど生意気な少年のような……可愛い後輩のような弟のような感じの男が、あんな蕩けたような顔をするとは。 (よく考えたら、ケンも24歳です……から、ね)  なんだろう。 (見てはいけないものを見てしまった気分だ)  でも目を離せないでいる。 (どうしよう、目が離せない)  上気した頬は赤みを増し、なんとも色っぽい。  前かがみになり、石原からちょうど見えない角度だったが明らかに自分のものに触れていると分かった。  はあはあと聞こえる熱い吐息の中で、時折 「い、石原……さんっ……、いしはらさん、ん、ぅ……、ふっ……」  混じる自分の名前。
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