04-3.後

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「わん、わふっ!」  マコトさんが石原を見つけて、繋がれた鎖の限界まで伸び上がって帰宅を歓迎している。 「ただいま、マコトさん」  一撫でして、駐在所に入ると 「おかえり、石原さん。早かったんだな」  予想通りケンが表に来て、石原を迎えた。  竹との衝突は、あの程度で済んだようで石原はほっとした。 「石原さんが忘れ物って珍しいな」 「竹さんとの話、聞こえてたんですね」 「まあな」  ケンに聞こえるように、わざと大きな声で竹に言ったのだ。聞いてもらってくれなくては困る。 「ところで、何、忘れたの?」 「携帯」  にっこり笑って、持っていた携帯を、今、まさに懐の内ポケットに入れる振りをする。 「え? それは……」  確かに仕事にならない。  駐在所のケンからの連絡が入っても対応できない。 「じゃあ、改めてまた行ってきます」 「また行くのか?」  石原が先ほどは見間違いかと思えるほどの普段通りのケンの対応。  先ほどの淫らな表情は微塵もない。 「そうですね、ちょっと出遅れちゃった感あるから、また日を改めましょう」  そういうと、ケンは無愛想を装っているがほんの少しだけ嬉しそうにしていた。 「……」  一瞬、もう元に戻ったケンの無愛想な顔に、先ほどの上気して自分の名を呼ぶ艶っぽい表情が重なって見えた。 「……お昼ですが……」 「うん?」  ケンは石原の言葉を待った。 「少なくていいです」  ぴく。 「この間、ケンが作ってくれた、美味しかったです」  ぴくぴく。 「全部のっけて、なんて、どうかな?」  ぴくぴくぴくぴくー!
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