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(分かりやすいですね)
石原の話にいちいち反応してしまうケン。
余裕をなくして、さすがに仏頂面でいられなくなっていた。
「い、石原さん……」
石原の考えた通り、ケンは目尻を赤く染め、狼狽えて口元を手の甲で隠した。
さっき見たあの時と似た表情に、石原は(見間違いじゃなかった)と確信すると共に、背中をぞくりとするものが走った。
「その……み、見てたのか……?」
ケンは、竹との話をまんま信じてくれているようだ。
意図的に覗いた石原に、ほんの少しの罪悪感が横切る。
「……はい」
だけど、今は追及の手を緩めるわけにはいかない。
「じゃあ、俺があんたをどんな風に見ているのか分かったんだろ?」
「少なからず」
思ったよりも淡々と、ケンと話せている自分に内心驚いていた。
「本気ですか?」
「本気だよ。悪いかよ」
「悪く……は、ないですね」
「じゃあ、いいのかよ?」
「そうですね。どちらかというといいです」
「あんたの隣で寝ている男が、あんたを想像してサカってもいいのかよ」
「いいですってば」
「それ、言っている意味分かってんのかよ?」
のらりくらりとした石原の受け答えに、ケンが焦れた。
すると今度は石原の方が
「ケンだって分かっています? 僕、男なんですよ」
と嫌な念押しをしてきた。
「知ってるよ」
「それでもいいんですか?」
「全然いい!」
思わずケンは叫んでいた。
「……むしろ、石原さんじゃなきゃダメだ」
ぼそりと付け足した。
「……」
おもむろに石原は無言で立ち上がり、駐在所の出入り口の鍵を閉めた。
「何を……?」
石原の意図を測りかねて、ケンが戸惑う。
「また竹さん辺りに踏み込まれては困りますから」
「え?」
「駐在所が閉まっていることなんて、よくあることです。警邏で出かけていると思われるだけですよ」
「……」
ケンがごくりと唾を飲む。
「人に聞かれては困るんです」
「あの、石原さん……?」
上ずった声で石原の真意を確かめるように名を呼ぶと
「ケン……」
同じように名を呼び返す石原が、制服の上着を脱ぎ捨てた。
ワイシャツとネクタイ姿になった石原が、ネクタイを緩めながらケンににじり寄った。
あまりの石原の剣幕に押され、石原と一定の距離とりながらケンは後ずさるように生活スペースの方へなだれ込んだ。
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