04-3.後

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「ケン……、僕に何か隠していますよね?」 「……っ!?」  明らかに期待に浮かれていたケンの表情が (ヒトに聞かれたくないって……そっちかよ!)  と曇った。 「ネタは上がっています。さっさと吐いちゃいなさい」  生活スペースの6畳間を石原が後ろ手で閉める。  完全な密閉空間ができた。  胡坐かくケンの真正面に座り、下から覗き込むように石原が上目遣いに無言の圧をかける。 「……」  やがて観念したのか、真一文字に結ばれていたケンの唇がゆっくりと開かれた。 「……す、すみません」  ぼそぼそと歯切れ悪くケンが謝る。 「石原さんをズリネタにしてすみません」 「……?」 「だって、いつも俺たち一緒じゃないか。仕事も一緒、寝るのも一緒。ご飯も一緒……」  出てきたのは、なんとも幸福な愚痴。  これは真が聞いたら確実にケンは無罪でも有罪、逮捕されてしまうであろう発言だった。 「全然、俺にプライベートがないから、あんたが留守の時にサカった……以上!」  めちゃくちゃ言い切られて、石原は 「えっ……と(僕の聞きたいことは、それじゃない)」  どうしたものかと考えていたら 「あ、プライバシーって言うんだっけ?」 「いや、それ、どうでもいいです」  同意語にこだわったケンに、思わず突っ込んでいた。 「毎晩毎晩気持ちよく寝ている石原さんの寝顔見てたら、俺、なんかモヤモヤしてきて……」 「……(君の所為で、気持ちよく寝てはいなかったんですが)」 「こういうの『蛇の半殺し』っていうの?」 「その間違いは許されません。『蛇の生殺し』ですね」  道理で、前回、駐在所に戻ってきた時スッキリした顔していたわけだ。 「……我慢ができなかったんだ」  最後はかつ丼を前にうなだれる犯人のようになってしまったケンに 「まあ、僕をおかずにしていたことは許しましょう。……というか、何故おかずどころか僕自身にしないんですか?」  石原は思わずこれまでの不満をぶちまける。
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