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「何、考えてます?」
「……話した後の嫌な結末」
「何か不安なことでも?」
「不安しかない」
ケンは不貞腐れて、そっぽを向いた。
「それさえも言う気になれませんか?」
「言ったら、俺は……(逮捕されて)困る。ここに居られなくなる」
「そんなことない。君は困りませんよ。言ったでしょ? 君の行きたいところが見つかるまでここに居なさいって」
「俺を追い出したんじゃないのか?」
やっとケンは顔を上げて、石原を見た。
「なんで、そうなるんです?」
「だって……そうとしか思えなかったから……」
石原はため息を一つ吐いた。
(こんなに言っているのに、まだ分からないのですか?)
という見えない文字を顔に浮かべ
「追い出したい男に、妄想ではなく実際に自分に手を出せなんて言いませんよ」
「え? あ? ……はあ?!」
またもや脳に到達した石原の言葉をステゴサウルス並みに時差あって解釈したケンは、次に目にした石原の行動に目を見張った。
今度こそ石原はネクタイを抜き取った。
「君さえ嫌でなければ」
「嫌な訳、ないだろ」
ケンの返事を聞くと、石原はケンににじり寄った。
それは野生生物が警戒して逃げないよう、そっと近づく動きに似ていた。
「喋ったらさせてくれるのか?」
真正面20㎝の位置に石原が来ると、ケンの方から聞いてきた。
動じてないように見せているが、少しばかり赤みさした頬がそうではないことを物語っている。
「もちろんです」
目を反らさずに即答した石原に
「俺の事、嫌いじゃない……んだったよな?」
ケンは念を押した。
「そうですよ。でないと、こんなことできません」
「むしろ、好き?」
調子に乗って聞く。
「違います」
「え? 違うの?」
想像した答えと違い、ケンの瞳に落胆の色が浮かぶ。
「君はかなりはっきり言わないと分からないようだから、言っておきます。僕は君を『好き』ではなくて、『大好き』なんですよ」
直後、ケンが声なく歓喜の雄たけびを上げた。
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