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石原がいち早くシャワーを浴び、制服を整えると駐在所のカギを開けた。
横開きのサッシをスライドさせ、顔を出して外を伺い見る。
顔に当たる潮風が気持ちいい。
駐在所の前の道路は、たまに車が通るくらいでいつもと何の変哲もない様子に安心した。
(昼間からあんなことしていて、何かあってたらたまったもんじゃないですね)
脇の犬小屋に繋いでいるマコトさんが、現れた石原を見つめて、嬉しそうにしっぽを振っていた。
島の変わりない様子に安心し駐在所の中に戻ると、ケンがシャワー浴びて生活スペースに戻ってきたところに出くわした。
上半身裸で、頭も洗ったようだ。
かぶったタオルでガシガシと雑に拭いている。
「ドライヤー使わないんですか?」
「暑いから、やだよ」
確かに、エアコンは付けていてもいつまでも汗が引かない暑さだ。
だが、頭からタオルを被っているのは、石原を正視できないためでもある。
それは石原も同じだった。
ケンの鍛えられた胸筋を目の当たりにしたら、先ほどあの胸に自分を押し付けるように抱きついて達したことを思い起こしてしまった。
「しかし、まあ……」
訪れた妙な沈黙を破ったのはケンだった。
「離島の警察官って優秀だな。男でもハニートラップなんて使えるのかよ」
生意気さを滲ませて、にやりとケンが笑う。
さっきの可愛い笑顔と大違いだ。
(ハニートラップ?)
石原はやや呆れて答えた。
「知りませんよ、そんなの。大体こんなことして喋らせたの、君が初めてですし」
「は?」
「それと僕、3年前は都内勤務でしたし。ずっと離島って訳じゃないんですよ」
「あー、そう」
心なしか、ケンが無愛想な振りしつつも喜んでいるように見える。
「そういえば、石原さん、大丈夫かよ?」
「え? 何が?」
「さっき『痛い』って言ってたのに、ごめん。俺、止められなくて」
「ああ。あれ」
石原は平然と言う。
「ケンのお臍のピアスが、僕の……先にちょうど当たって痛かったんです」
「あ、ああ。そ、そっか……そっちが痛かったのか」
ケンはバツが悪そうに答えた。
「じゃあ、これ外そっかな?」
これ=臍ピアスをケンが指差した。
「そうしてもらえます? バックでする時には背中に当たって痛そうだから」
「え? ええええええ!?」
驚いたケンの指は、一体どこを差していいのか分からなくなり彷徨っていた。
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