05.エピローグ

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05.エピローグ

「やあ、おが駄犬くん! 今日も元気かな?!」  病室には全く合わない挨拶をして、真はケンの病室を訪れた。  4人部屋だが、ケン以外居ない病室では多少の大声も許されそうだ。 「出たな、暇な刑事」  ケンが入院してからというもの、真は見舞いを欠かさない。  こうしてやってきては過去の話を聞かせ、今の話を聞き出そうとする。  だが、真の目的はそれではないということはケンにも分かっていた。 「おいおい、『はぐれ刑事純情派』みたいな言い方はやめろよ。照れるじゃないか」 「どっちかというとアンタは不純派だろう?」 「まあ、いいや。ところで陸裕どこだよ?」 「やっぱり不純派じゃねえか」  芸能人の水着大会並みに真の本音がポロリしていた。 「うるさいな。俺は癒しを求めてここに来てんだよ」  癒しと言うのは、明らかにケンの事ではない。  真は病室をぐるりと見回してみたが、石原の姿はどこにもなかった。 「冷蔵庫の飲み物が少なくなったんで、今、下の売店まで買いに行っているよ」 「ふうん。すれ違ったかなぁ?」  真は残念そうにしていたが、帰る気配はない。  むしろ、石原が帰ってくるまでしっかり居座る気だ。 「そういえば、まこりんに聞きたいことがあったんだが」 「ん? 聞くだけならなんでも聞いてよ。守秘義務あるから、なんでも答えられないかもしれないけど」 「あんたと石原さんの別れの時」 「うん」 「石原さんが呟いた俳句……なんだっけ?」 「それ、短歌な」 「そう、それ」 「えっと『忘らるる 身をば思わず 誓いてし 人の命の 惜しくもあるかな』だったっけ」 「よく覚えてたな」 「仕事がら記憶力は良いんだよ。カルタ大会で、やたらと覚えさせられたし」 「意味は?」 「は? 意味?」 「石原さんの事だから、なんか意味があるんじゃないの? と思って」 「……考えたことなかったな」  異動前、時期的にも恒例のカルタ大会の後だったので、石原の言うとおりただ思いつきの言葉だと思っていた。  真は、居住まいを正し、携帯で意味を調べ始めた。 (あ、失敗した)  ケンは思った。 (考えなしに言っちゃったけど、石原さんは天然に愛を語る人だから)
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