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「石原さん……」
「離島に行って良かった。ケンが離島に来てくれて良かった」
心なしか石原の目が潤んでいる気がする。
ケンは、なぜこんなにも石原が自分のことを好きになってくれたのか、よくは分からなかった。
だけど、石原がこんな風に言ってくれるのを嬉しくない訳がない。
「あ、あの……陸裕……?」
すっかり出来上がっている二人の世界に、果敢にも真が声をかけた。
「まだ居たんですか? 真さん」
「いや。実は、俺、さっき来たばっかりで」
「そうですか。でも、ケンは見ての通り無事回復に向かっています。僕がず~っと傍で看病しますので、真さんは帰っていいですよ」
きっぱりという石原が凛々しい。
「石原さん……」
思わずケンが仰ぎ見ると、石原はますます照れてしまった。
「君がため 惜しからざりし 命さえ 長くもがなと 思いけるかな」
「なんとなく意味が分かるし、石原さんの事だから、多分天然に愛を語ってるんだよね?」
「……その通りです」
もはやケンにこの手の言い回しは効かないと石原は苦笑いを浮かべる。
(なんでしょうね。本心見抜かれてるっていうのに、こんなにも嬉しいっていうのは)
「早く島に帰りたいな」
「そうですね。マコトさんも竹さんも待ってますしね」
にっこり微笑み見つめ合う二人に
「あ。なんか俺、お邪魔みたいなんで帰ります」
所在なさげに真は告げると、ケンは
「せっかく来たばっかりなのに悪いな、まこりん」
と全く悪びれずにニコニコと笑顔で手を振った。
それで真はすごすごと病室を出たのだが、腹の虫がおさまらないので、すかさずナースステーションに寄り
「あちらの病室の緒方さんですが、なんだかとても具合悪そうだったんです。本人と付き添いの人は『大丈夫』と遠慮して言うんですけど、俺、もう心配で心配で。どうか気を付けて何度でも看に行ってあげてください。お願いします。本当にいーっぱいいーーっぱい看に行ってあげてください」
と頼んで帰っていった。
―了―
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