02-1.前

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 老人は 「私のですよ」  と至って穏やかな声で答えた。 (ほら、見ろ)  はたから見たら、弱いものいじめだ。  警察官が、ホームレス老人にナンクセ付けるなんて。 (さあ、どう収集すべきか……)  と、真が必死で考えていたら 「そうですか?」  食い下がる石原。 (ああ、もう、やめておけって)  真が石原を止めようと思った矢先、石原は 「先日見かけた時は、紺色の自転車を押していらしたようでしたが。あれも、あなたの自転車ですか?」  と尋ねた。 「いや、あれは……」  老人は少し目を泳がせて、一瞬、口ごもったかのように見えたが、すぐに 「知人に借りた自転車で。私は自転車がないと仕事ができないので」  と、歯切れ悪くボソボソと言った。 「そうですか」  今度こそ、石原が納得したかのように言ったかと思ったら 「では」  と、更に続けた。 (「では!?」 まだ、続ける気か?!)  真が驚いていると 「その3日前になりますが、その時は赤い自転車でしたよね?」  真が (おいおい。こいつ、そんなことよく覚えているな)  と思っていると 「え? あの……?」  老人もそんなことを言われると思っていなかったようで、戸惑っていた。 (でも、それって……)
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