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02-2.中
(ほーら、言わんこっちゃない)
と、真は言いたかったが、今はそれ所じゃない。
その日は夜勤で石原が、昼からが真の勤務だった。
引継業務中に30代前半の女性がやってきたので、石原が応対に出た。
真は遠巻きに様子を見ていると、石原が、なにやら凄い剣幕で女性に罵られ始めた。
「あんたの所為であたしの人生めちゃくちゃよ……!」
聞こえてきたヒステリックな高い声が耳に痛い。
心配になって奥から真が出てきた。
「石原、どうした?」
「僕がたまたま職質した男性が、薬物の不法所持で。いつものようにパトカーにご同行願ったんです。その奥さんです」
「捕まえ方が問題だっての! なんだってそこいらの道端で、すんのよ! 人が見ているでしょ?! そんくらい分かんない?! その所為でうちの子、学校行けなくなったんだからね!」
男性の子供の同級生が、パトカーに乗る所をたまたま見かけ、
「おまえの父ちゃん、警察に捕まったんだろ?」
と学校で噂になり、子供は登校拒否になったそうだ。
噂が広がり、自分も近所さえ歩けない日々がもう二週間も続くと言う。
(職質だから、往来でするよなぁ)
と真が思っていた。
だが、女性に冷静な判断力はない。
二週間の人目を避け、引き籠もった生活で、すっかり精神が参ってしまっていた。
そして、二週間の間、子供と二人きりの生活をするうちに、考え込み、ふさぎ込み、こうなってしまった諸悪の根元を石原だと思いこむようになっていた。
「配慮が足りなくて、すみませんでした」
と、非もないのに石原は謝ったが
「どうしてくれんのよ! あんた、責任取ってよ! 謝んなくていいから、責任取れって言うの!」
女は激昂し、突然持っていたトートバッグから包丁を取り出した。
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