127人が本棚に入れています
本棚に追加
「?」
だが、いつまでも止血ができない。
石原の手がぶるぶると震え、力を入れられずにもたついている所為だ。
「どうした? 血は苦手か?」
職業柄、これまで何度も血を見てきたことはあっただろうにと不思議に思い、石原をのぞき込むと、石原は泣きながら真の右手首を押さえていた。
「……すみません。うまく……力が入らなくて」
顔は青ざめ、貧血で倒れそうなのは出血した真ではなく、石原の方だ。
女性の相手をしている岸田が、未だに病院にも行こうとせず止血さえままならずにまごまごしている二人を見かねて
「石原、うろたえんな! 止血するんなら、心臓より高く手ぇあげさせろ」
と指示を出すと、石原が
「あ! はい!」
と反射的に真の手を高く上げる。
「う!」
一瞬、真の息が詰まった後
「……ぎゃあぁぁぁ!」
怪我した腕を強引に引っ張りあげられて叫んだ。
「あ、すみません。真さん」
慌てて謝る石原に、手の怪我よりも石原の介抱の方に命の危険を感じた真が
「もう、やっぱり救急車呼んだ方が良くない?」
とこちらも泣きそうになって言う。
すると、岸田が
「そのくらいで救急車頼めるか!」
と取り合ってくれなかった。
その辺は、同じ公務員としてのプライド。
ただでさえ忙しい救急隊員に負担をかけたくないという気持ちと、警察官として、その程度で救急車は呼べない、市民に手本を示せという判断からだった。
最初のコメントを投稿しよう!