02-3.後

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02-3.後

「手、くっつきましたか?」  電話での石原の返事は至極素っ気ないものに思われた。  手のひらから中指の付け根まで裂け、あれだけの流血を見せたが、交番最寄りの外科医は慣れたもので、特にたじろぐこともなかった。 「あー。はいはい。包丁を手で掴んじゃったんですねー」  と。  初日は縫っただけ。 「大丈夫です。よくあることです」 「え? よくあるの? こんなこと」 「ええ。子供が初めての料理で包丁の刃を掴んじゃったとか、洗い桶に包丁入れたのを忘れて、手を突っ込んだ主婦とか。まあ、ここまでざっくりいっちゃったのは、あなたが一番ですが」  嬉しくない一等賞である。 「明日も消毒だけなんで家でもできるけど、見せに来てね。その後は、くっつき具合にもよりますが、二三日おきに来てもらって、良さそうだったら抜糸。それから後は、一週間あけて傷の具合見せてくれたら、もう来なくていいですよ」 「え? そんなもん? 入院とかしなくていいの?」  真が不安げに聞くと 「入院、したいの?」  と医者から、さも面倒臭そうに言われた。  「ざっくりいっちゃったで賞」をもらった真からしたら、入院でもしないと治らないと思えたのだが、医者は 「若いから、もっと早くくっつくと思うよ。しばらくお風呂とかは困るかもだけど、まあ、生活できないことないから」  と相手にしてくれず、すぐに真は帰された。
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