02-3.後

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 帰宅する前に荷物を取りに交番に寄ると、岸田が 「ほーら。救急車呼ばなくて正解だったろ?」  と鬼の首を取ったかのように言っていた。 「……誰も俺の心配をしてくれない」  真が零すと、聞きつけた岸田が 「何、言ってるんだ」  真の頭を、書類のバインダーで軽く叩く。 「みーんな、お前のことを心配してたに決まっているだろ」  そう思いたいけれど、石原も岸田も態度は冷たいではないか。  不満そうにしていると、岸田が 「お前のケガに不用意に騒いじまったら、お前もあの女性も過剰に興奮させてしまうかもしれない。だから、本当は狼狽えたいし声を出したいのに必死でこらえて、冷静な振りして対応してたんだろ? なあ、石原」  と石原に同意を求めた。  岸田に言われて、石原は小さく頷くかのように頭を少し下げた。  その後、すぐに 「真さんは今日の業務は無理ですよね。僕、代わりに荷物を取ってきますね」  とロッカーの方に行ってしまったので、微妙な表情までは分からなかった。  だけど、石原の後ろ姿から見える耳が赤い気がする。 (陸裕。必死で冷静な振りをしてたんだな)  と思ったら、真はなんだか嬉しくなった。
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