01.志々目真という男

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 それは、もう9年も前の話になる。  1月だった。  例年通り、成人式やセンター試験辺りで雪が舞うような寒い冬。  石原陸裕(いしはら みちひろ)、当時21歳。  いつものように6時に目が覚めると、隣に裸の男が寝ていた。 「え? 誰?」  ショックで真っ青になりつつ呟くと同時に 「え? ここ、どこ?」  と戸惑った。  真ん中で帯のように区切って色を変えた壁紙。  黒いパイプベッド。  さっき時間を確認したフォトフレームのデジタル時計も、すべてが、質素でつつましい自分の住まう官舎ではないことを語っている。  一体、ここはどこなのか、手がかり求めてきょろきょろと見回す内に、 「……っ!」  身体をひねった弾みで、ずくりと腰に鈍痛が走った。 (まさか……?)  自分も全裸。  相手も全裸。  たどり着く答えは決まっている。  ベッドに合わせた黒いシーツのほとんど重力を感じさせない羽毛の掛け布団を、おずおずと持ち上げた。 「……(誰だよ、相手)」  不安と妙な期待で鼓動が早くなる。  思い切って、横に寝ていた男の顔を確認して、石原は愕然とした。 「嘘だろ?」  自分の目を疑った。  苦手と思っている同僚・志々目真がそこに居た。
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