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「だからって、お前まで飲んじゃって。また記憶なくしたらどうするんだよ?」
「真さんと同じで一杯だけだから、大丈夫です。景気付けです」
自分と似たようなことを言う石原に
(俺とのセックスには景気付けが要るんか?)
と思ってしまう。
「無理させたくない」
と真が言えば、
「無理じゃないです。むしろ、したいんですってば」
売り言葉に買い言葉的に返事がくる。
「いいのか?」
「僕は…………負い目でもなんでもないです。ま、真さんのことが好きだから……したいんです」
「え? ごめん。聞き逃した。もう一回言って」
と言ったが
「そう言っている時点で、聞き逃していないでしょ? もう色々考えちゃう前に、ヤってしまいましょう」
石原は相手にしてくれなかった。
(出たよ、陸裕の「危ない石橋は走って渡っちゃえ」作戦!)
真は思いつつも、今度ばかりはそれに助けられた気がした。
「あ、右手を見せてください」
不意に、石原が真の手を取った。
治ったという右手には、確かにかさぶたとその下に新しい皮膚がしっかりできている。古い角質がガサガサになって、見事なまでの一直線の傷の通りにまとわりついていた。
「こっちの手、あまり使わないでくださいね。ばい菌入ると困るので」
「陸裕は、ばい菌じゃねえ。むしろ、聖……」
「はいはい。もう、そういうのはいいです。利き手使えない分、僕、協力しますんで」
「?!」
(今、何て言った!?)
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