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戸惑う真を後目に、ごそごそとその場で石原は着ていた7分袖のシャツをまくり上げた。
「……」
小さい頃から習っていた柔道で鍛え上げられた腹筋。それとその上の胸筋が、順に石原みずからの手で晒される。
石原は柔道をするには体格に恵まれた方ではなかった。
ただ、自分よりも大きい相手さえも投げ飛ばす筋力と技術力があった。
筋肉はマッチョというよりも、無駄な肉が付いていないとボクサーのようなスレンダーな体。
投げられないために体重を付けるより、瞬発力を上げて相手を捕まえて投げる方に特化した体になっていた。
その肉体美に、思わず、真がごくりと唾を飲み込む。
先ほどのキスで感じたのであろう。
石原の胸の先端が艶のある膨らみを見せている。
真は、そこに唇を寄せた。
「あっ……」
咥えられた瞬間、小さく声を上げる石原だが、まくり上げたシャツを下ろそうとはしなかった。
自分で迎え入れ、好きな男に愛してもらえる。
(あんなに好きになってはいけない人だと思っていたのに……)
真の将来のことを思えば、いくら好きだのなんだの言われても、心を開く気はなかった。
どんなに好きになっても知らない振りをし続ける気でいた。
気持ちを心の奥の方の檻の中に閉じこめておくつもりだったのに、あの日……真が自分の代わりにけがをした日に
「真さん!」
と夢中で呼んでしまった瞬間、檻は壊れてしまった。
壊れて飛び出した感情に、もう抗えなかった。
だから、今、石原は至福だった。
真にこんな風に扱ってもらえる日が来るとは思えず、それが尚更、石原は夢でも見ているような気持ちだった。
ふわふわとした幸福感が、大きな真綿のように石原を包んでいた。
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