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「陸裕、すまない。とうとう……見合いをすることになった」
真がこの世の終わりのような顔で石原に告げた。
「はあ」
珍しくもない。
これまでもそんな話、石原は何度も聞いてきた。
だけどいつだって真は
「おまえが居るのに受ける訳ないだろ?」
と頑なに断っていたのに、今回は珍しいなと石原は思った。
「岸田さんに勧められて……」
(それで、か)
相手も考えたなと思った。
志々目真28歳。
30歳手前でそれなりの出世頭。
黙っていれば、いい男で通るのだ。
(喋ったら、ただの甘えん坊ですけどね)
元々、頼まれたら断れない性格だ。
石原のことがあって頑なに断り続けていたが、同じ内勤で恩ある岸田経由のお見合い話となっては、断れなかったのだろう。
相手は、警視の娘さんだそうだ。
「いいお嬢さんなんだ。向こうの親父さんはお前のことをめちゃくちゃ気に入っているし、お嬢さんの方もこの話をしたら乗り気ならしい。頼む。一回でいい。会ってくれ」
と岸田に言われ、どうしても断れなくて受けてしまったらしい。
岸田の口ぶりから、岸田はこの話を真にとっていい話だと思い込んでいる。
だからごりっごりに押してきた。
「断れない理由が真さんらしいですね」
石原も真の性格は熟知していたので、仕方ないなとは思っていた。
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