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(女性は無理だって言ってるのに)
「陸裕、試してもみないでダメだというのは、どうかと思う」
「しません。どうかと思うのは、真さんの頭の方ですね」
「なんなら彼女に頼んで一緒にするというもありかも」
「は?!」
冷静装っていた石原が、さすがに声を上げた。
「……正気ですか?」
「ん……」
天真爛漫通り越して、ただのバカだと思った。
「内緒で付き合おうって言っているクセに、僕の存在を自分からバラすんですか?」
「あ、そうか。ダメかぁ」
石原の言葉に打ちのめされて、真は俯いた。
「いい方法だと思ったんだが」
石原に女性を薦めるのをいいことだと思ったらしい。
さっきから人としてどうかと思う発言を繰り返す真を不憫に思う
(潮時ですね)
と石原は思った。
「無理です。きっちり別れましょう」
思いの外、簡単に言えた。
「彼女を大切にしてください」
「……」
言葉を失くして、塞ぎこむ真に
「……一つ、いいことを教えます」
石原がため息混じりに言った。
「真さんは、勘違いをしているんです。僕のことを好きだと思っているようですが、それは雛鳥が親鳥を慕うような感情なんですよ。恋とは違います」
6年前、色々吸収したくて石原に懸命について回り、真は親切に教える石原に惹かれた。
警察官として決して大きくない体格で、柔道大会で自分よりも大きな相手を投げまくる石原に憧れた。
(何を言っているんだ、僕は)
(そんなことを言いたいんじゃない)
(本当は罵りたいのに)
(一つもそんな言葉が思い浮かばない)
石原の心の中に、真を愛おしんで離れがたく思う気持ちと対極にもう一つの感情があった。
好きという感情を解放した代わりに、6年間ずっと檻に閉じこめた気持ち。
(真さんの足枷になりたくない)
彼は、これから彼女と結婚し、家庭を築いていく。
そのうち、子供もできるだろう。
自分では決して成し得ない幸福を彼が掴むのなら、それでいいではないか。
自分を押し殺すのに、十分な理由だった。
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