127人が本棚に入れています
本棚に追加
「子犬だったマコトさんは、夜に寂しがって鳴くこともあったので、一緒に寝ていたんです。その時に『真さんがくれた犬にしては、いい子ですね』みたいな感じで何度か真さんの名前を口にしたことがありました。確信持てませんが、きっとその所為だと思います」
「……犬に?」
真が言うと
「い、……犬に……」
石原は恥ずかしそうに目を伏せて答えた。
「その、マコトさんがとても可愛かったので、つい語り掛けていました……」
(そういう所も石原さんだよな……)
きっと父性をくすぐられたのだろうとケンは思った。
そして
(まこりんも、その恩恵に預かったくせに)
と、新人時代に世話を焼く石原にうっかり惚れたくせにと真を見る。
当の真は、石原を嬉しそうにニマニマと見ていた。
「元の『コウ3』と似た感じの名前でしょ? いつの間にか『マコトさん』を自分の名前だと思いこんじゃったようで、『マコトさん』と呼ばないと反応しなくなったんです……」
石原は、真の視線に耐えられず、ますます気まずそうにしながら説明していた。
「え? そんな理由?」
ニマニマは一時停止。
落胆して真が言うと
「僕は不本意でしたよ」
石原が追い打ちをかけた。
「俺は悲しい」
元恋人の名前を付けたと勝手に期待をしていた真が、真っ暗な顔で言った。
「僕だって、悲しいですよ」
離島に置いてきた「マコトさん」という名になった愛犬に、石原は思いを馳せた。
(ちょっと……、竹さんに聞いた話と違うな)
大人しく聞いていたケンは、密かに思った。
最初のコメントを投稿しよう!