03-2,後

4/8
前へ
/133ページ
次へ
「子犬だったマコトさんは、夜に寂しがって鳴くこともあったので、一緒に寝ていたんです。その時に『真さんがくれた犬にしては、いい子ですね』みたいな感じで何度か真さんの名前を口にしたことがありました。確信持てませんが、きっとその所為だと思います」 「……犬に?」  真が言うと 「い、……犬に……」  石原は恥ずかしそうに目を伏せて答えた。 「その、マコトさんがとても可愛かったので、つい語り掛けていました……」 (そういう所も石原さんだよな……)  きっと父性をくすぐられたのだろうとケンは思った。  そして (まこりんも、その恩恵に預かったくせに)  と、新人時代に世話を焼く石原にうっかり惚れたくせにと真を見る。  当の真は、石原を嬉しそうにニマニマと見ていた。 「元の『コウ3』と似た感じの名前でしょ? いつの間にか『マコトさん』を自分の名前だと思いこんじゃったようで、『マコトさん』と呼ばないと反応しなくなったんです……」  石原は、真の視線に耐えられず、ますます気まずそうにしながら説明していた。 「え? そんな理由?」  ニマニマは一時停止。  落胆して真が言うと 「僕は不本意でしたよ」  石原が追い打ちをかけた。 「俺は悲しい」  元恋人の名前を付けたと勝手に期待をしていた真が、真っ暗な顔で言った。 「僕だって、悲しいですよ」  離島に置いてきた「マコトさん」という名になった愛犬に、石原は思いを馳せた。 (ちょっと……、竹さんに聞いた話と違うな)  大人しく聞いていたケンは、密かに思った。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加