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そういう気持ちがあったので、当然のように新しく赴任した石原にも警戒していた。前任者の件が尾を引き、閉鎖的な上に、拒絶的でもあった。
「君が一緒に来てくれて、良かった」
何度、子犬の存在に助けられただろう。
石原は、他に会話する相手のいない駐在所でよく子犬に話しかけていた。
「あの時、犬に話しかける謎の駐在さんが来たって、漁師のマツ男達と話していたんだよねー。あんなんで大丈夫かって言ってさー」
と竹はケンに教えてくれた。
(まさか、竹さん達にそんな目で見られていたとは知らなかったんだろうな)
おかげで「不思議ちゃん」のレッテルを貼られていた。
「島のみなさんと仲良くなりたいんですが、挨拶も無視されるし……。どうしたら、いいでしょう?」
いつものように、朝の立番で小中学生の登校を見守り終えると、駐在所の傍らに繫がれている子犬に語りかけた。
犬は、主人に話しかけられて、小さなしっぽをちぎれんばかりに振っている。振る振動で、お尻までフリフリと連動して動く勢いだ。
「コミュニケーションの達人と言えば……」
石原の知っている者の中で群を抜いてコミュ力高い男。
「真さん……ですね」
あの人脈の広さには見習うものがある。
「真さんの真似をしてみよう」「真さんなら、こういう時どうするのかな?」と、ことあるごとに子犬との会話に「真さん」を連呼していれば、自分の名前を「マコトさん」と覚えても不思議はないだろう。
(でも、きっとそれだけじゃない)
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