03-2,後

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 石原は詳しく語らないが、なんとなく分かる。  たった一人離島にやってきて、住民に受け入れてもらえず毎日を寂しく過ごす。  それは、それから3年後に島にやてきたケンも、同じような扱いを受けたので簡単に想像できるのだ。 (それでも、あの都会よりはいい)  と思うものの、夜になると無性に懐かしく思い出してしまう。 (果たして、自分の決断は正しかったのか?)  そんなことばかり考えてしまう。  思い切って新生活を始めたのに、夜になると後悔ばかりが襲ってきて、その胸を占める。  そんな時に、飼い主慕うコウ3がすり寄ってくる。 「君は親兄弟と別れて。僕は真さんと別れて。寂しいのはお互い様ですから、しばらく忘れられるまでは慰め合いましょう」  もしかしたら、子犬を抱きしめて、泣いてしまう夜もあったのではないか。 「真さん……。真さん……」  誰ともまともな会話ができない日々が続く中、思い出されるのは都内で 「陸裕」  といつも話しかけてくれてた真のこと。  楽しかった日々。  島での唯一の味方であり家族であるコウ3を抱きしめ、コウ3以外誰も聞くことない駐在所で、賢いコウ3が自分の名前を「まコウ(ト)さん」と覚えるほどに 「真さん」  と連呼したのではないか? (そのくらい言い続けないと、自分の名前だと勘違いしないよな)  掛布団を頭からかぶりつつ (あ! あの可愛くない犬が俺に懐かないのは「マコトサン」と正しく名前を呼ばない所為か!?)  ケンは気付くのだった。
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