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石原は詳しく語らないが、なんとなく分かる。
たった一人離島にやってきて、住民に受け入れてもらえず毎日を寂しく過ごす。
それは、それから3年後に島にやてきたケンも、同じような扱いを受けたので簡単に想像できるのだ。
(それでも、あの都会よりはいい)
と思うものの、夜になると無性に懐かしく思い出してしまう。
(果たして、自分の決断は正しかったのか?)
そんなことばかり考えてしまう。
思い切って新生活を始めたのに、夜になると後悔ばかりが襲ってきて、その胸を占める。
そんな時に、飼い主慕うコウ3がすり寄ってくる。
「君は親兄弟と別れて。僕は真さんと別れて。寂しいのはお互い様ですから、しばらく忘れられるまでは慰め合いましょう」
もしかしたら、子犬を抱きしめて、泣いてしまう夜もあったのではないか。
「真さん……。真さん……」
誰ともまともな会話ができない日々が続く中、思い出されるのは都内で
「陸裕」
といつも話しかけてくれてた真のこと。
楽しかった日々。
島での唯一の味方であり家族であるコウ3を抱きしめ、コウ3以外誰も聞くことない駐在所で、賢いコウ3が自分の名前を「まコウ(ト)さん」と覚えるほどに
「真さん」
と連呼したのではないか?
(そのくらい言い続けないと、自分の名前だと勘違いしないよな)
掛布団を頭からかぶりつつ
(あ! あの可愛くない犬が俺に懐かないのは「マコトサン」と正しく名前を呼ばない所為か!?)
ケンは気付くのだった。
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