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04-1.前
今度は、今より6ヶ月ほど前。
「駐在さん、駐在さーん」
いつもの時間にいつものように竹が現れる。
交番の軒先で飼われている柴犬のマコトさんも一緒になって吠えて、石原を呼んだ。
竹は暇を見つけてはちょくちょく駐在所にやってきて、良くも悪くも喋っていくようになった。
だけど、以前の一方的に敵意をぶつけられるようなお喋りではなく、好意的であることは分かる。
その証拠に、マコトさんが竹が来ると喜ぶのだ。
もちろん、竹はマコトさんにおやつを与えたり来るたびに撫でたりして可愛がるからでもあるが、以前の好奇な視線ではない。優しいまなざしを分かって、懐いていた。
(可愛がってくれる人をちゃんと分かるマコトさんは偉いなー)
石原は、竹をしっかり覚えたマコトさんを誇らしく思うと同時に、自分以外に懐いたマコトさんに少しばかり焼き餅を妬いた。
「何ですか?」
いつもの通りに小中学生の登校の見守りを終え、ちょっと休憩と入れたお茶を置いて、石原は表に出てきた。
「ちょっと、ちょっと」
絶対に「ちょっと」では済まさない話の長さだろうと思われるが、石原はイヤな顔一つせずに、手招きする竹の前に歩み出た。
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