04-1.前

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「さっきの定期船で、変な男が来たんだよね」 「変な男? 観光客ですか?」  風光明媚なこの島に、自然を満喫しに訪れる観光客は多い。  3年の月日が、漁業メインの島の産業を、漁業と観光がメイン産業に変えていた。  おかげで定期船とホテルの利用客は増えたが、ホテルのオーナーでサーフィンをこよなく愛す藤本は「ゴミが増えた」とちょっとだけ嘆いていたが。 「それが一人で来てるみたいで、さ」  確かにそれは変かも。  旅行目的の観光客は大抵複数だからだ。 「ぶらり一人旅ってヤツでしょうか?」 「ねいちゃああくてびていしかないこの島に?」 (竹さん、すばらしい。果敢に新しい言葉を仕入れていますね)  密かに石原は感心した。 「とにかく、変! 変な若い男だったんだよ」  言いながら図々しく竹は、駐在所に上がり込んだ。  備え付けのイスを竹に譲ると、石原は、もう一杯お茶を準備した。  竹がイスの上にちょこんと正座をする。 「どうぞ」  と出せば 「ありがと」  まるで喫茶店の常連客のように、竹は茶を啜った。  石原は、予備の折りたたみイスを出すと竹の横に座った。
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