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ところが、その日もその次の日も、竹の言う「変な」彼に会えなかった。
(この狭い島で、いったい彼はどこに行ったんだろ?)
島の唯一の宿泊施設「シーサイドビュー(元・潮騒荘)ホテル」のオーナーの藤本に聞いたが、そんな客は居ないという。
それで、この島のどこかの家に滞在している客かと思っていた。
「駐在さん! 駐在さん!」
竹がまたもや、やってきた。
いつもの9時過ぎ。小中学生の登校が済んだ頃。
すっかり、竹の朝のルーティンと化しているようだ。
「あいつの居場所、分かったよ!」
あいつとは、一昨日この島にやってきた変な一人だけの若い男とピンときて、
「金髪の彼?」
石原が尋ねると、竹は思い切り首を縦に振った。
「ちょっと離れた所の空き家に居るみたいだよ。気味悪い。石原さん、ちょっと行ってきてよ」
という竹の情報を元に、石原は出かけた。
島から1キロほど入った原生林茂る山間に、6年くらい前から空き家になった家があった。
ツタの張り付く朽ちた門には、表札があり葉の隙間より「緒方」と読めた。
足下には、落ちてしまった郵便受けに緑の苔が生え、かろうじて3人分の名前が書いてあるのが分かった。
苔を払って、かすれたマジックの文字を読む。
世帯主と配偶者、そしてその子供1名と思われた。
竹が言うには、この家に最後まで住んでいたのは奥さんの「久子」さんだ。
子供の「愛」さんは、高校から島を離れ、都会に出ていったきり戻ってないと聞いた。
過疎化が進むこの島では珍しくもないことだった。
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