04-1.前

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 ところが、その日もその次の日も、竹の言う「変な」彼に会えなかった。 (この狭い島で、いったい彼はどこに行ったんだろ?)  島の唯一の宿泊施設「シーサイドビュー(元・潮騒荘)ホテル」のオーナーの藤本に聞いたが、そんな客は居ないという。  それで、この島のどこかの家に滞在している客かと思っていた。 「駐在さん! 駐在さん!」  竹がまたもや、やってきた。  いつもの9時過ぎ。小中学生の登校が済んだ頃。  すっかり、竹の朝のルーティンと化しているようだ。 「あいつの居場所、分かったよ!」  あいつとは、一昨日この島にやってきた変な一人だけの若い男とピンときて、 「金髪の彼?」  石原が尋ねると、竹は思い切り首を縦に振った。 「ちょっと離れた所の空き家に居るみたいだよ。気味悪い。石原さん、ちょっと行ってきてよ」  という竹の情報を元に、石原は出かけた。  島から1キロほど入った原生林茂る山間に、6年くらい前から空き家になった家があった。  ツタの張り付く朽ちた門には、表札があり葉の隙間より「緒方」と読めた。  足下には、落ちてしまった郵便受けに緑の苔が生え、かろうじて3人分の名前が書いてあるのが分かった。  苔を払って、かすれたマジックの文字を読む。  世帯主と配偶者、そしてその子供1名と思われた。  竹が言うには、この家に最後まで住んでいたのは奥さんの「久子」さんだ。  子供の「愛」さんは、高校から島を離れ、都会に出ていったきり戻ってないと聞いた。  過疎化が進むこの島では珍しくもないことだった。
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