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「愛」
……どう考えても、女性の名前だ。
それに年齢が合わない。
久子は竹と同世代だったという。
(だったらお子さんの「愛」さんの年は40代後半から50代)
どう頑張っても「若い男」には見えないだろう。
ボロボロの木の門をくぐり抜け、その先にある玄関先に立つ。
(電気、通っているかな?)
不安に思いながら、押しボタンが変に浮き上がったインターフォンを鳴らしてみるが、音はしない。
やはり電池切れか。
玄関の引き違いのアルミドアをそっと触ると 弾みで3センチほど空いた。
(あ。鍵、かかってない……!)
どうやって開けたのか?
考えると怖いが、このままにもしておけない。
「すみませーん」
思い切って、石原は玄関のドアを大きく開け、そこから声をかけてみた。
だが、しばらく待ってみたが、返事はない。
(どうしよう)
もう一度声をかけて誰も居なかったら、とりあえず警邏の残りを済ませて、その帰りにもう一度ここに寄ってみようかと思っていた矢先だった。
「誰だ?!」
突然、背後から声をかけられ、石原は驚いた。気配に敏感な石原が気付かなかったというのもあるが、声をかけられたというよりも、怒鳴られたというが近い。
振り向くと、そこには一目で竹の言う男だと分かる者が居た。
暑いのだろう。派手な柄のアロハシャツの前を全開にして、臍まで見えている。竹の言う「おっぱい丸見え」などというほど見えはしないが、シャツの合わせの間から確かに胸筋が盛り上がっている。
耳のピアスも目立つが、臍にもピアスは付いていて、どちらかというと石原はそちらに目を奪われた。
(って、言うか……)
一瞬、熊かイノシシが現れたかと思われるほど、とにかくでかい男だった。
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