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「あ、すみません」
まずは無断で入ったことを謝罪したが、
「勝手に入ってくんじゃねえ!」
男は言葉を遮って、石原に掴みかかった。
「ちょ、ちょっと待って! ちゃんとインターフォンは押したんですよ」
まさしくテリトリーを荒らされた獣。
男は石原の言葉に一切耳を貸さずに問答無用とばかりに、石原の襟首を掴もうとした。
だが、男の手は空を切った。
「ちょっと待ってってば……!」
間一髪で、石原が後ろに避けたのだ。
190センチ近いこの男に捕まれ持ち上げられでもしたら、きっと石原は、つま先しか付かない。
いくら柔道の達人でも、つま先しかつかないわ、体格差がこれほどあるわでは、勝負になるはずもない。
(捕まったら、アウト。しかもコレ、一発でももらったら意識飛びそうだ)
一発も当たってはいけない。
それが、石原を緊張させた。
「勝手に入った訳じゃないんですよ!」
自分を捕まえようと、剛腕が右から左からぶんぶんと襲いかかる。
(うわ。手も、ごっつい……)
体にふさわしいごつごつとした手が、石原を捕まえようと躍起になっていた。
人間を殴ることに躊躇しない動きだった。
金髪男は眼光鋭く、大きな体に似合わず俊敏な動きに若さを感じた。
きっとこれまでに何人もこの男に締めあげられ、殴られているのだろうと思われた。
(暴力を生業にしている輩)
考えられるのは、格闘家かヤクザ。
どちらかで言えばヤクザの方だろう。
動きが自己流を極めている。
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