01.志々目真という男

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「俺たち、付き合うことになったのも、なかったことにするのか?」 「……すみません。覚えていないので」  だけど、なんとなく。 (なんとなく……告白されたのは覚えている)  打ち上げの後半、石原の隣に来て、しばらく一緒にハイボールを飲んでいたら、 「俺、実は石原のことが好きなんだ」  とさらっと言った。 「すっげー好き。大好き」  周りの喧噪で、おそらく他の者には聞かれていないとは思うが、さらっと、ごく自然に明るく告白してきた。 (僕は……、自分が男性しか好きになれないのは知っているけど)  いわゆる「ゲイ」なんだろうなと思っていた。  高校生の頃から好きになる人が、男性ばかり。  始めは戸惑っていたが、もはやそれが自分の性癖なのだと割り切って考えるようにした。  ただ、人には知られたくないとは思っていたので、ひた隠しにしていたが。  それなのに、志々目真は酔ってたせいか、満面の笑みで言ってきた。 (僕としたことが、流された……とは思えないけど、流されたんだろうな)  というか、そういうことをしたのに覚えてないのも不甲斐ない。 (しかも、酔ってヤっちゃった相手が志々目さんだなんて……最悪だ)
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