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男の右が、石原のほぼ真上から降りおろされた時、
「いってー!」
悲鳴を上げたのは男の方だった。
弧を描くように石原は身を翻し、男の右腕を掴むと、男の振り下ろした勢いを利用して逆関節でねじ上げることに成功した。
(やっと……、捕まえることができた)
石原が安堵の息を吐く。
「いたたた!」
肩から沿うように腕を固定され、人体構造上否応なく螺子伏せられ、男が膝を折る。
顔を床すれすれに伏せて、男は唸った。
「落ち着いてください」
腕を捕まえたまま、石原は男を見下ろしながら言う。
「だったら離せよ!」
「僕の話、聞いてもらえます?」
「分かったから、まずは離せってば!」
依然男の凶暴な目の光は消えてはいなかったが、石原は信用して男の手を離した。
制服を着ているのだから、警察官だとは分かっているのだろう。
分かっていながら、この男は襲いかかってきた。
「えーっと、君はこちらに寝泊まりされているんですか?」
石原に捻じられた右腕の付け根を痛そうに掴みながら、男はその場に胡坐をかいた。
「……」
「勝手な宿泊はダメなんですよ。ここの島のルールなんです」
「……知らねえ」
「まあ、他所ではあまり聞かないルールですから、ね」
これまで大抵腕力で解決できたのだろう。
それが通じずに、ふてくされている。
だけど警察官の石原と目を合わさないのには、その他にも理由がありそうだ。
(警官を嫌っている……)
としたら、理由は一つ。
やましいことをしているか、したことあるかだろう。
(今の段階では聞かないでおこう)
彼には聞きたいことが山ほどある。
変に勘ぐられて口を噤まれては困る。
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