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「だいたい、ここ、俺んちだし。勝手に泊まっている訳じゃねえ」
ぼそぼそと答えたのを、石原は聞き逃さなかった。
「え? 君……緒方さん?」
「……そう。多分」
「多分って」
「母さんの本当の名前、知らねえから」
「え?」
「ずうっと前に、ばあちゃんって人から俺の居た施設に葉書が来た。それでここの住所が分かった。『緒方久子』は俺のばあちゃんだ」
「……はあ」
母の名は分からないのに、祖母の名前は分かるのか?
理解不能だ。
「もう、いいだろ」
男は、ぷいっと顔をそむけた。
「よくありません。ばあちゃんちイコール君の家じゃありません」
「え? そうなの?」
びっくりして上げた声はやや高く、年相応に若い。
(……なんだろ。なんだか、可愛いな)
さっきまで出してた低い声は、きっと演技だ。
いわゆるドスを効かせて、相手を威嚇しているのだろう。
柴犬のマコトさんが、駐在所の近くを散歩している犬に対し低く唸るのに似ているなと、少し思った。
(金髪もあちこちに付けたたくさんのピアスも、威嚇の為かな)
威嚇。
恫喝。
しかもそんな見かけや小手先の技が通用するのは、素人か下っ端相手。
(だったら、彼もパシリかな?)
どう考えてもヤクザ下っ端路線まっしぐらな思考に、石原は苦笑いを浮かべた。
(だけど、そんな彼がこの何もない平和な島に何の用だろう?)
帰省?
母の名も知らないのに?
ますます、理解不能だ。
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