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「金、ねえよ」
先ほどから同じ問答を繰り返している。
「じゃあ……」
今度は、石原は少し考えて
「駐在所に来ます?」
と、言ってみた。
部屋は余っている。
この青年に少しの間くらい貸すのならいいだろう。
「……ここに居ちゃダメなのか?」
予想通りの嫌そうな反応だ。
「色々家具も残っている空き家ですけど、島の所有物です。勝手な宿泊になっちゃいますので、アウトですね。罰金です」
島の方も管理が行き届かないらしく、似たような空き家が点在していることを石原は警邏している関係上知っていた。
「……」
「とりあえず、一昨日からの使用については知らなかったということで目を瞑ります。ね。駐在所に行きましょう」
「金、ないよ」
またもや同じ問答が始まった。
「お金なんて取りません」
「じゃあ、タダ?」
「はい」
タダと聞いて、ケンが驚いた表情を見せた。
「……それで、あんたに」
だけど、すぐに顔が曇る。
「あ、僕、石原です」
「……石原……さんに、なんかいいことあるのか?」
「いいこと? 別にないです」
石原は、ケンの尋ねた意図が分からずに首を捻った。
「何もないのに、俺に来いと言うのか?」
「うーん……。無断宿泊すると君を捕まえなくてはならなくなるので、強いて言えば、それです」
「……」
「こんなに家を綺麗にしてくれた君を捕まえたくないんです。だから、良かったら……駐在所に来てくれませんか?」
「……」
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