04-1.前

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 その仏壇の前で、彼は大きな体を丸め、頭を低くし (……物色? いや、あれは……)  拝んでいた。  合わせた手には、古い葉書があった。  さっき彼が言っていた祖母からの葉書なのだろう。  仏壇の中の残っていた6年前の線香が煙をたなびかせていた。 (意外……)  と思っていると、緒方ケンの声が聞こえてきた。 「ばあちゃん、ごめんな。俺、葉書一枚寄越したっきりで、何も連絡くれないでとあんたを恨んでいたよ。何かしたくても何もできなかったんだよな……」  歯を食いしばっているようだが、わずかに嗚咽が漏れた。  6年前。  ケンが18歳になる年だった。  母と連絡が取れなくなったと施設長が、書類を頼りに祖母に連絡を取った。  祖母は孫が居ることさえ知らずに居たらしい。  既に祖父は亡くなっていた。  長年の足を煩っている祖母は、とても一人で島を出ることはできない。  それで 「お世話になります」  と、老いたたどたどしい文字で施設に葉書だけが届いた。  それっきり、何の連絡もなかった。  母は依然行方は掴めていない。  施設長先生は、ケンが施設を去る時にその葉書をくれた。  母の名前は施設の決まりで教えてもらえなかったが、これはいいだろうという施設長先生の考えだった。 「連絡できなくて当然だよな。死んでるんだもん。ずーっと恨んでて、ごめんな……」  ケンはどうしても祖母に謝りたくて、石原を外へ追い出したようだった。
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