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その仏壇の前で、彼は大きな体を丸め、頭を低くし
(……物色? いや、あれは……)
拝んでいた。
合わせた手には、古い葉書があった。
さっき彼が言っていた祖母からの葉書なのだろう。
仏壇の中の残っていた6年前の線香が煙をたなびかせていた。
(意外……)
と思っていると、緒方ケンの声が聞こえてきた。
「ばあちゃん、ごめんな。俺、葉書一枚寄越したっきりで、何も連絡くれないでとあんたを恨んでいたよ。何かしたくても何もできなかったんだよな……」
歯を食いしばっているようだが、わずかに嗚咽が漏れた。
6年前。
ケンが18歳になる年だった。
母と連絡が取れなくなったと施設長が、書類を頼りに祖母に連絡を取った。
祖母は孫が居ることさえ知らずに居たらしい。
既に祖父は亡くなっていた。
長年の足を煩っている祖母は、とても一人で島を出ることはできない。
それで
「お世話になります」
と、老いたたどたどしい文字で施設に葉書だけが届いた。
それっきり、何の連絡もなかった。
母は依然行方は掴めていない。
施設長先生は、ケンが施設を去る時にその葉書をくれた。
母の名前は施設の決まりで教えてもらえなかったが、これはいいだろうという施設長先生の考えだった。
「連絡できなくて当然だよな。死んでるんだもん。ずーっと恨んでて、ごめんな……」
ケンはどうしても祖母に謝りたくて、石原を外へ追い出したようだった。
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