127人が本棚に入れています
本棚に追加
誘うなオーラが出てないことを感じて、石原は
「よかったら君も来ます?」
何気なくケンを誘ってみた。
するとケンは
「俺を一人で置いておくと、なんか盗るかもしれないしな」
自虐的に答えた。
つまりは「ついていく」とケン流に返事したのだ。
「あはは」
突然、石原は声を上げて笑った。
「ここに君の欲しいものなんか、ないでしょ?」
と軽く言うと
「そうとも限らない」
ケンが不敵な笑顔で答えた。
(おやおや、目利きじゃないな)
駐在所には、金目のものなんか一切ない。
「言っておきますが、ここにあるものは売り飛ばしたって、大した金額にならないものばっかりですよ」
盗られてもさして困りはしないが、警察官の立場として、一応、釘は刺しておく。
「ちなみにここで一番高いのは、マコトさんです」
と言うと
「あいつ、高いのか?」
ニヤニヤと笑っていたケンが、意外なマコトさんの価値に驚いた。
「正規ルートで買えば、結構なお値段です。でも、マコトさんはケンを見ると吠えるし噛みつくしで、とても持ってはいけないでしょ?」
マコトさんは新参者のケンに心を開かないばかりか、むしろ家族の序列としてケンを下に見ているようだ。
「あいつなんか持っていかないよ。大体、俺の欲しいものは、それじゃない」
「?」
他に何かよさげなものがこの駐在所にあっただろうかと、石原は考えたがこの時には分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!