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電気を消して布団に入ると、数分して
「ケン……、まだ起きていますか?」
駐在所の奥の間。
台所に6畳間が付いているプライベートの部屋がある。
廊下を挟んで向かいに駐在所の仕事する空間。
廊下の先は階段に繋がり、ケンが寝ていた二階へと続いている。
その部屋の奥側に布団を敷き、「絶対に奥に寝せてください」と言い張った石原が声をかけてきた。
「何?」
廊下側の出入り口に近い方のケンが答える。
「すみませんが、僕の手を握っていてもらえませんか?」
石原がそっと布団から手を出す。
(よっぽど怖いんだな……)
ケンがその手を包み込むように握ると
「あ、良かった。なんだか……安心します。これなら眠れそうです」
石原から嬉しそうな声が返ってきた。
(何、この可愛い生き物……)
警察官なんて天敵以外の何物でもないと思っていたが、石原の存在はことごとくケンの概念を叩き壊していた。
(無償で住むとこくれるし、せめてもの代償にと家事をすれば心底有り難がるし、警邏やゴミ拾いに付き合えば喜ぶし……)
やがて聞こえてくるすうすうという寝息。
(明日も早いもんな)
毎日5時起きでゴミ拾いは待っている。
安心して寝入った石原の顔を真横で眺め、ケンはなんだかとても嬉しくなり、石原の手を握り直す。
指と指の間に自分の指を通し、しっかりと握り込む。
(う……。なんだ? 今度は俺が妙に興奮して眠れなくなった……)
ケンは握り方を変えたことを少しだけ後悔した。
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