04-2.中

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(……?)  生暖かい風の筈なのに、なぜ爽やかな香りがするのだろう。  藤本は 「駐在所は海に近いから、ね。海で溺れた亡者があの世への道を尋ねに来ているのかもね」  とか言っていた。その後に 「あ、参考にした映画は『クリープショー』だよ」  とちょび髭に指を添えてかっこつけて言っていたが、石原はその時はすっかり話を聞く気を失っていたので聞こえていたかどうかは分からない。聞いていた所で石原がそういった映画を観る筈もない。 (……ミント……?)  海の底より湧き出る亡者にしては腐乱臭ではなく、吹く風に乗って香るのはミントだった。 (あれ? どこかで……)  どこかで嗅いだ匂いだった。  体はすっかり睡眠状態だったが、恐怖のあまり冴え切った脳だけがフル活動し、嗅いだことあるその匂いの情報を探す。 (あ……、うちの歯磨き粉の匂い……!)  本土勤務時代より愛用のスーパーミントグリーンの香りだと気付いて、石原は更に戦慄した。
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