127人が本棚に入れています
本棚に追加
(……?!)
ケンの右手のひらの温もりが、首から伝わる。
それから戸惑いがちに頬にかかったかと思ったら、そのまま移動し、耳の後ろを捉えた。
そして左手も同じように添えられる。
(???)
ケンの両手に優しく挟み込まれるように顔を固定されているようだ。
「……」
無言で、ケンの顔が近付く気配がした。
ケンの深い呼吸で、ふわりと額にかかった石原の前髪が揺れる。
(ミントの香り……)
仄かに香るそれが、ケンが吐息を漏らしたのだと分かった。
(一体、何をして……?)
総合して考えると、ケンは気配を殺して忍びより、石原の頬から耳にかけ、そっと撫でた。
そのまま顔を固定した後に、石原の額辺りに顔を近づけ、深く髪の香りを嗅いだものと思われた。
(なんで……、そんなことを……?)
動揺が収まらない。
部屋が明るかったなら、今度は間違いなく真っ赤になって、起きているのがバレないよう必死に呼吸を乱さないよう体を動かさないよう努めているのが分かっただろう。
(か、加齢臭……? もしかして、僕の頭皮、匂う?)
石原が色んな意味でドキマギしていたら、
「……」
何か考えていたのか、あるいは思い止まったのか、ケンは来た時と同じように気配を消して自分の布団へと戻っていった。
(な、何だったのでしょう?)
石原はそっと目を開け、ケンの様子を窺った。
ケンは頭まで布団をかぶり、石原と逆の方に身体を傾けていた。
(……)
何が何やら分からない、が。
ケンに殺意がないことが分かり、ついでにオカルト的な現象でもないことへの安心からか、石原は急速な眠気に誘われ、その夜は気絶するように眠ってしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!