04-3.後

1/36
前へ
/133ページ
次へ

04-3.後

 真と連絡を取るには、一人にならないといけない。  そう考えた石原は、ケンに 「今日は島の奥の方まで警邏に行ってきます。ケンは駐在所の留守番を頼みますね」  と断りを入れた。  これまでも何度かそういうことがあった。  島に点在する老人宅を訪問するのも石原の仕事の一つ。  大抵は駐在所や朝市が開かれる港の近くに居を構えていたので、ケンも一緒に連れて行くことが多かった。が、中には往復と訪問で数時間かかる遠い所に住んでいる人もいた。そんな時には駐在所を数時間も空けるわけにはいかないので、ケンに残ってもらっていた。もしもの時には、携帯電話で連絡を入れるように頼んでいたのだ。これまでそんな緊急事態は一度もなかったが、石原にとってケンが留守番をしてくれるのは、ありがたい。 「……分かった」  無愛想に答えるケンの顔をじっと見つめる。 「……」  今のケンの表情は読みにくい。  いつも仏頂面だが、今朝はますます無表情だった。 (あえて無表情にしているみたいだ……)  何かを隠しているように思えた。  昨夜の謎の行動もある。 「えっとですね……、今日は、島のかなり奥の方のお宅まで行く予定ですので……二時間は帰れないかもしれません」  と石原が言うと 「分かった。留守番しておくから、駐在所のことは気にせずに行ってこいよ」  とケンがやっぱり無愛想に答えた。  二時間。  あえて時間を言ったのは、その時間、ケンを泳がせるためだ。  自分と一緒の時は何もしなくても、一人になったらあるいは何かしらの行動を起こすかもしれない。 (昨日の不可解な行動が分かるかもしれない)  駐在所の留守を預かってくれるケンに、石原は少しばかりの後ろめたさを感じたが、 (すみませんね。実は30分くらいで帰ってきますよ)  と考えていた。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加