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「あ」
「何?」
「途中で甘木商店に寄れるのですが」
「うん」
島に3店舗ある甘木商店は、甘木親族一同で仲良く経営している商店だ。日用品や食料品などが、コンビニほどの品揃えはないものの大抵のものは置いてあった。営業時間も朝10時から6時までのホワイト企業だったが、島では貴重な買い物できる店舗だった。
「シャンプーを買おうと思います」
実はスーパー主夫だったケンがその手腕を発揮するようになってからは、日用品や食料品を管理するようになっていた。おかげで、干からびたキュウリや漬物のように黄みがかってしんなりとした大根、汁まみれで半ばジュースと化したレタスが、冷蔵庫の奥から出てくることはなくなった。
「シャンプー? なんで?」
ケンが率直にきく。
「なんでって……」
石原が困ったように顔を赤らめる。
「頭皮を爽やかにしてくれる『で・めりっと』を買おうかと」
「今、使っているヤツでいいじゃん」
「世界が嫉妬する『あーじえんす』とかは……?」
「石原さんが世界から嫉妬されると嫌だよな」
「は?」
「いや。だから、今使っているやつでいいじゃん。なんで、そんなぴえんな顔してるの?」
「鼻炎? 僕、鼻声ですか?」
「いや、ぴえん」
「?」
(なんだかよく分かりませんが。……君が、僕の頭皮を気にするからですよ)
と言えない石原は、詰め替え用も買ってある今のシャンプーを替えるのはもったいないとケンに押し切られて、シャンプーを買うのは諦めることにした。
「行ってきますね、マコトさん。ケン」
と挨拶をして、石原は出かけた。
(む。 いつも犬の方に先に声をかけやがって)
ケンの形を整えられた眉の左の方がピクンと上がる。
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