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(え? え? え? どういうことなんだろ?)
もはや、完全に石原は取り乱していた。
柔道での試合やこれまでの警察官の経験もあって、多少のことでは動じない自信があったのに。
(なんで狼狽えているんだ?)
とにかく、この慌てっぷりを真に悟られるわけにはいかない気がする。
(いや、待て。まずは落ち着け、自分)
「……こ、心づもり……ですよ」
電話であまりの長い沈黙は変に思われる。
絞り出した答えは、自分でも思いがけない言葉だった。
「心づもりィ?」
案の定、真が解せぬと訊き返す。
だが当の石原だって、そうと分かって言ったものではないので、ますます困ってしまった。
「そ、『備えあれば患いなし』って言うじゃないですか」
「備え?」
「知っておけば何かの時に慌てずに済むでしょ? その時の準備を……」
「よく分からん。だから、一体、何の準備? なんで慌てる?」
真はますます分からなくなったようだ。
真の中では答えは明確だった。
ケンが犯罪者なら逮捕。そうでなければ逮捕しない。
それだけの話だ。
一体、石原は何の準備が必要というのだ?
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