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「何のって……?」
果たして、何の準備だろう。
ケンが本当に犯罪者だったなら、自分が捕まえて本土に送る。
その時に自分が傷つかぬよう、先に覚悟を決めるためなのか?
(そもそもどうしてケンが逮捕されれば、僕は傷つくのだ?)
何だろう。
妙にソワソワする。
(僕は……何のために、こんなことを真さんに頼んでいるんだ? これって、どういうことなんだ?!)
ついでにオロオロする。
何の為なのか?
まるで出口のない迷宮に入り込んだかような気分だ。
いくら考えても、答えが見つからない。
電話を持つ石原の手が震えた。
「陸裕? おーい、陸裕ぉ? 聞いてるのかぁ?」
先ほどから何も言わない石原を訝しんで、真が電話口に居るのか確かめるように何度も呼んでいた。
その声に現実に引き戻され
「じゃ、頼みましたよ!」
いささか荒く言うと、石原は今度こそ電話をすぐに切った。
(もしかして……僕が……ケンが居なくなると嫌なんだ……)
居なくなるのが嫌だから、ケンの過去を調べ、来たるべき最悪の瞬間に備えようとしているのか?
(いや、いや。そんな、まさか……)
なぜだか分からないけど、焦った。
やっと見つかった出口なのに、それが分かった途端、石原の中のモヤモヤした気持ちが一気に凝結して押し寄せてきたかのような気分だ。
(ぼ、僕にはマコトさんが居れば、それでいいんだし)
予定していた30分はとうに過ぎた。
(まあ、いいか。真さんの返事を聞いてからでも。今は……)
今は無理だ。
ケンが駐在所で何をしているか、知るのが怖くなった。
明らかに石原が二時間留守にするのを喜んでいた気配がした。
もしも何かを目撃したら、正しく動ける自信がない。
(一週間後……)
問題の先送りにしかならないことは分かっている。
(心の準備ができてからで、いいですよね?)
そう決めたら、石原はパトカーを島の奥へと走らせた。
当初の予定通り島の奥に住まう老人宅を訪れ、思いがけず石原は久々に元気な顔を見ることができた。
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