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好きなんて言える訳ないよ
「なあ、充って告白した事あるか?」
だらだらと豊の部屋で二人過ごしていたら突然聞かれた。
読んでいる雑誌で特集でもしているのかと顔を上げ、豊を見ると想像していたよりずっと真剣な顔でこちらを見ていて驚いた。
「無いけど。」
なるべくなんて事の無い様に言った。
告白だって?無いに決まってるだろうが。
俺が告白したいのは目の前のこの友人だけなのだから、お前が俺の告白を受けた事が無いのならば俺は告白をした事が無いって事だろう。
まあ、そんな事口に出して言えるハズも無いので黙っていた。
告白したい人でもいるのかと聞くのがベターな事は分かっていたけど、わざわざ自分からそんな事聞いて傷ついても仕方が無いと思ったんだ。
何も答えない俺に気分を害したと思ったらしく、フォローするように豊が言う。
「いや、俺もした事ねーし、別に充の事馬鹿にしてる訳じゃなくって!!
……、あのな、俺好きな人が居るんだよ。」
「そう。」
それしか言葉が出なかった。
いつかその日が来るんじゃないかと思っていた。
だけど、それはもっと先であって欲しかったのだ。
今はまだ友達として馬鹿みたいに笑いあっていたかった。
「豊は告白するんだ?」
俺“は”出来ないけど。
「豊は恰好良いからきっとOKしてもらえるよ。」
頑張れも応援しているも自分の気持ちとあまりに違いすぎて言えなかった。
「そうかな?」
はにかむ様に笑った笑顔を見てやっぱり好きだと再認識してしまって、ああ、自分は馬鹿なんだなと思った。
◆
豊の好きな子は隣のクラスの子で名前はレナちゃん。
見た目はとても女の子らしくて可愛い。
競争率は結構高いらしい。
今付き合っている人は居ない。
好きなタイプは頼れる人。
豊の口から聞かされるレナちゃんの情報がだんだん増えていく。
実際にレナちゃんを見に行った事もある。
俺とは似ても似つかない華奢で可愛い女の子。
俺は、普通の男。
端から、立っている土俵が違う事を思い知らされる。
別に報われたいと思っている訳じゃない。
だけど、ショックな物はショックなのだから仕方ない。
ふらふらと校舎を人の居ない方へと歩いていく。
前を向くと泣いてしまいそうて下を向いて歩いていた所為だろうか、どんと誰かにぶつかってしまった。
「す、済みません!!」
慌てて顔を上げて謝ると、そこには長めの髪の毛を結んだとても有名な先輩がいた。
この人位度胸があれば違っていたのだろうか。
その人は俺より1学年上で、オネエ系の様な不思議な喋り方をする人だった。
バイセクシャルである事も公言しているが、それでも友人は多い様で彼の周りはいつも人が沢山居た。
ヤバい、なんかマジで泣きそうだ。
「ちょっと!!折角の綺麗な顔が台無しでしょ。」
オブスになるわよと言いながらハンカチを差し出される。
そのほほ笑みがきっかけだったのか、差し出されたハンカチがきっかけだったのかは分からないけれど、涙腺が決壊したように涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「ちょっ!?しょうがない子ね、こっちよ。」
手近な空き教室に引きこまれた。
止めようと思っても涙はちっとも引っ込まず次から次へと流れ落ちた。
先輩は、呆れる訳でも無く、怒る訳でも無く、そっと背中を撫で続けてくれた。
こういう優しさがこの人が人気の理由なのだろうと思った。
暫くしてようやく涙が止まると、一気に羞恥に襲われる。
「あの、大変ご迷惑をおかけして。」
こすった所為で赤くなっているだろう目もとがジンジンしている。
「大丈夫よー。可愛い子の涙が見れるなんて役得早々無いわよ。」
ニコリと笑って先輩は言った。
本当にこの人は優しい。
「どうしたの?って聞いて良いかしら。」
「……失恋したんです。」
この人になら言っても赦されるんじゃないかと漠然と思った。
「フられちゃったの?」
「言って無いです。」
またジワリと涙があふれそうになった。
「そう、辛かったのね。」
それ以上先輩は何も聞かなかった。
その優しさにまたポロリと一筋涙があふれた。
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