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「ほら、ほっぺたにクリームついてるわよ。」
先輩が俺の頬を指でなぞる。
思わず、赤くなってしまう。
心臓がどきどきする。
この感覚が何かを俺はちゃんと知っている。
俺は彼にとって、多分出来損ないの後輩だ。
だから、ちゃんと。ちゃんと後輩の顔をしていないといけない。
先輩はふう、とため息をついてそれから困ったみたいに笑った。
「充は案外分かりやすいのよ。」と言う。
「ね、もう好きでしょ?」
先輩が俺の事を見る。
別に馬鹿にしてもいない事も分かる優し気な表情だった。
だけど、少しだけ切ない表情。
ああ、この表情を俺は知っている。
多分先輩を想うと俺も同じような表情をしている。
先輩は、『いつも、恋はしてるわよ。』と言っていた。
色々な気持ちが胸の中で渦巻く。
もしかして、でもまさか。その両方が交互に頭の中を行き来する。
言ってもいいのだろうか。
今の気持ちを伝えてしまっても迷惑にならないだろうか。
『伝えたい気持ちなら口にしなきゃ伝わらない事もあるし、伝えないで自分の中で大切にしておきたい気持ちだってあるでしょ?』という先輩が前に話した言葉を思い出した。
「好きって言ってもいいですか?」
先輩は、とても嬉しそうに微笑んだ。
了
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