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俺は、自分の部屋を出て、猛ダッシュで電話のある所に行った。健太の家の電話番号は見なくてもわかる。少し待つと健太の母が出て、すぐに健太に代わってくれた。
今日あったことと、部屋を森にしようと思っていることを話すと、健太は言葉が途切れるほど笑って「めっちゃ、面白そう、俺も、やるわ」と言った。
俺たちはまだ実行していない作戦と想像上の景色があまりにも馬鹿らしく面白かったから、しばらく喋ることもなく笑い続けた。
呼吸を整えて電話を切り、同じく猛ダッシュで自分の部屋へと戻った。
気が付いたときには、カブトムシ用の土の入った大きな袋を持ち、ハサミを入れていた。まだ少しにやけながら、一呼吸を置いて、思いっきり土をばらまいた。
さっきまで子供部屋だったその空間が、徐々に土臭くなり、「森」に近づくにつれて、俺の作業は加速した。こうなるともう止められない。土は部屋の地面を覆うには少なくて、まばらに土がばらまかれた部屋が完成した。カブトムシも虫かごから出して、俺は、部屋着のまま土の上に寝転んだ。
去年の夏休みと同じ匂いだ。ここは、さっきまでの知らない場所じゃない、俺の場所だ。
天井からの光は、木々の隙間から見える太陽の光。無風のはずの部屋の中に蒸し暑い風を感じる。まだ完全にではないけれど、部屋が「外」になっていることが、不自然で面白かった。小さい部屋が、果てしなく広い森に繋がった。そんな感じだった。
だいぶ昔、幼い頃に読んだ『怪獣たちのいるところ』という絵本で見た、部屋から草木が生え、水の音がどこかから聞こえ、それが何処かに繋がって、旅に出ることが出来る。俺の部屋は、まさにそれだった。
きっと健太の部屋も今頃はそうだ。
繋がっているから、いつでも遊びに行ける。
紛れもなく、広く、暖かい、森だった。
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