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さがす、さがす。
ネットオークションでその人形を見つけた時、私は思わず声を上げてしまった。その場所、会社の休憩室。同じように昼食を取っていた同僚達から、若干奇異の眼を向けられてしまうことになる。
「す、すみませーん……」
誤魔化すように笑って、私はお弁当箱に残っていた卵焼きを口に突っ込むと。行儀が悪いのは承知で、もぐもぐしながらスマホを弄る手を止めることができない。なんといっても、ずっと探していたものがオークションに出品されているのだから。
『高砂ミナコ先生の遺作の一つ!幸せの八つ人形のうちの一つです』
書かれている文言を、一つ一つ頭に入れていく。
『貰い物ですが、どうやら本物であるらしいです。証明書もついています。欲しい方は是非どうぞ』
出品画面には、可愛らしいおかっぱのお人形の写真が写っている。艶やかな髪に、丸くて可愛らしい瞳。うっすらバラ色に染まった頬に淡く色づいた唇。まさに日本人形といった出で立ちのその人形は、艶やかな藍色の着物を纏って微笑んでいる。
オークション画面では、複数枚の写真を同時にアップすることができる。写真は人形本体のみならず、証明書の写真も含まれていた。また、足の裏には高砂ミナコのサインもしっかりと記されている。間違いない、と私は高揚した。あの憧れの人形師、高砂先生の作品だと。
私の趣味は昔から一つだ。お人形を集めることである。人形とつけばぬいぐるみに近いもの、あまり人間らしくないものまで多岐に渡るが。中でもずっと探していたものの一つが、高砂先生のお人形であった。彼女は九十歳で天寿を全うするまで様々な作品を残した天才人形師である。どうにもそちらの専門家には高い評価を下されにくいのだが(デザインがどうにも個性的すぎるとか、そういう理由らしい。全くもって理解できない)、この人形はただ美しいだけではないのである。
彼女にはもう一つの顔があった。占い師としての顔である。
彼女は作る人形に“願い”を込めることができるとして知られていた。彼女が祈りを捧げた人形を手に入れると、たちまち様々な幸運が舞い込むとされているのだ。金運の人形は財布が潤い、恋愛運の人形を持っていると彼氏ができるといった具合である。
よって、専門家には技術面で高い評価を受けないものの、マニアの間では極めて高価格で取引されることも少なくない品なのだった。特に去年高砂先生が亡くなってからは、ひそかにネットオークションなどで出品されていたり、取引される傾向にありというのである。私もずっと、彼女の作品を求めてネットの海をさまよっていた一人だった。毎日数時間ごとにオークションサイトを覗くのに、今までは“完売しました”の文字か“取り扱いがありません”しか見たことがなかったのである。
――これは、是が非でも欲しい……欲しい!
お人形マニアにして、生粋の高砂先生ファンとして逃す手はないのである。私は頭の中で予算を計算すると、一気に一万円を投入した。即決価格が定められていて本当に良かったと思う。きっと、この出品者は先生の作品の価値が分かる人ではなかったのだろう。あの高砂人形が一万円程度で手に入るなんて、ラッキー以外の何物でもないのだから。
――楽しみだなー!この子のために、お部屋を整理しないと!
私はニヤけが止まらない状態で、弁当箱をしまった。当然、休憩時間が終わっても無駄に上機嫌だったせいで、上司には相当気味悪がられてしまったわけだが。
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